なあ、悠詩
先日の旅では、バッグはひとつだけとした。
およそ一ヶ月間、私を支えてくれたパートナー。
二年ぐらい前に中国のアモイで買ったものだ。
バッグは、正確にいうとビニール製のリュックだ。
ただ、コロがついていて転がせるようになっている。
スーツケースのように。
これに必要最低限のものだけを詰め込んだ。
さすがにパンパンになったが、背負える重さでもある。
実際に背負ったのはスイスの豪雪の時だけだったが。
彼にとっては想像以上に過酷な旅だったのだろう。
ロンドンにて片方のコロが壊れてしまった。
以降、壊れた方を引きずる形で使うこととなった。
現地で新たなものを調達することは考えなかった。
思い入れがあるので、一緒に日本に連れて帰りたかった。
それが叶わぬならせめて買った場所であるアモイまでは。
結果、最後まで踏ん張ってくれた。
コロを失ってしまった所はヤスリで削られたようになっている。
バッグの中と貫通している部分もあった。
すぐに中身を取り出し、身軽にしてあげた。
そして、その体ひとつのままお別れをした。
ゆっくりおやすみ。
上位クラスの機内やラウンジで私の服装と共に浮いていたよね。
引きずる音が耳障りで白い目で見られたこともあったね。
悪かったよ、でもとても助かったよ。
ありがとう、そしてさようなら。
失った片足。
【小説「源平咲き」118,281文字(原稿用紙296枚目)推敲中】
from オトウサン
-悠詩(1歳3ヶ月) with 父(33歳) and 母-