なあ、悠詩
ただいま。
あら、オマエサン、泣かないのね。
きょとんとしちゃって。
パパってわかったの?
それとも単に目新しい人が訪ねてきたと思ってるの?
オマエサンを挟んでカアサンと抱き合った。
ちょっと窮屈かな?
帰ってきた。
私のいるべき場所へ。
こう思えるだけで十分。
そして幸せ。
地球をぐるっと周って13カ国、20都市に及んだ旅行。
見識を広めるとか、国際交流とかどうでもいい。
大切だと思っていたものが、しっかりと確認できた。
それだけでいい。
確認できたもの、それはたったふたつだけ。
<その1>
カアサンとオマエサンとの生活が何よりも大事だということ。
この小さな家庭で、ささやかな日常を穏やかに生きたい。
これが私の生きる目的であり、責任だ。何よりも優先したい。
それに物書きや音楽などの創作が楽しめればいうことなし。
これはあくまでプラスアルファであり、趣味レベルで十分だ。
これしかないと執着するのはもうやめた。
もっと自分の中に白紙の部分を増やそう。
肩の力を抜き、気軽にいろんな色(価値観)に染められるように。
そうすれば創作にももっと幅も深みも出てくるような気がする。
<その2>
そして親に大切に育てられたと改めて思った。感謝したい。
いろんなものに好奇心を持って行動できることを誇りに思う。
ただ、もはや私は自分の家庭を持っている。
別々の空間と時間に生きている。逆戻りはもうできない。
だから、自分の家庭を大切にすることが親孝行だと思っている。
そうすることによって、かえって不義理になることがあっても。
すれ違うことがたくさんあったとしても、常に感謝は忘れない。
つまり、私にとっては<1>が一番大事。
そして、それを大事にすることが<2>にも繋がる。
一方的かもしれないが、これが自分の中での前向きな結論。
さあ、ゆっくりと歩んでいこう。
日常に散りばめられたささやかな幸せを抱きしめよう。
この旅で気分転換ができた。
副作用のいらつきも収まり、抜け毛も止まった。
治療は続くが、区切りをつけ、また新たな気持ちで臨める。
ずっと引きずっていた仕事のことも、吹っ切れた感がある。
もうひとつ、区切りがついたものがある。
小さなころから、地図帳、地球儀、時刻表が大好きだった。
想像するだけで楽しかった。
いつかそれを駆使した旅をしたいと思っていた。
それはこの旅でもう十分に堪能できた。
そんな小さなころの自分とそろそろお別れしよう。
いままでありがとう、そしてさようなら。
また、新しく始まるのだ。
始まるために終わるにすぎない。
形や想いは変わりつつも、すべては繋がっていく。
なあ、オマエサン。
放ったらかしにしてごめんね。
いっぱい遊んであげなきゃ。
というかパパの方が遊んでもらっているんだよね(汗)
なあ、カアサン。
今回、時間や費用も含めて我がままさせてもらいました。
治療のことといい、色々と苦労をかけてしまってごめん。
結局、いつも好き勝手にさせてもらっていると痛感したよ。
なあ、おふたりさん。
ありがとう。
そしてこれからもよろしくね。
帰国翌日、私の通院に付き添ってくれたオマエサンとカアサン。
オマエサン、ずいぶん髪が伸びたね。
そしてだいぶ歩けるようになったじゃない。
酔っ払いみたいにフラフラだけど、それもまた可愛いじゃない。
【小説「源平咲き」115,671文字(原稿用紙290枚目)推敲中】
from オトウサン
-悠詩(1歳2ヶ月) with 父(33歳) and 母-